手足・のど・舌・呼吸を動かす筋肉への指令を出す神経(運動ニューロン)が、だんだん働かなくなっていく病気です。 指令が届かなくなった筋肉はやせていき、力が入らなくなります。
体の動かし方を伝える電線が、少しずつ切れていくイメージです。 電線が切れても、その先の部屋(感じる力・考える力)が消えるわけではありません。 これが、この単元で一番大事な前提になります。
「体が動かなくなる病気」と聞くと、認知症のように考える力も落ちていく病気を想像する方がいます。 ALSは運動ニューロンだけが障害される病気で、考える力や感じる力は、多くの場合そのまま残ります。 この違いを知らないと、接し方を誤ってしまいます。
感覚(痛い・くすぐったいなどを感じる力)、視力、聴力は、ALSでは早い時期に失われにくいとされています。 目を動かす力も、他の筋肉より保たれやすい力の1つです。
「体が動かない」ことと「分かっていない」ことは別です。 ご本人は、動けない体の中で、こちらの声をしっかり聞いて、考えています。 本人の前で本人がいないかのように話さない、という接し方の理由はここにあります。
進み方の速さには個人差が大きく、数字はあくまで目安です。 呼吸器を使わない場合、2〜5年が1つの目安とされ、ある調査では生存期間の中央値は約48か月(4年)でした(2026年10月時点、出典:難病情報センター)。
同じ調査では、1年以内に亡くなる方が約1割、逆に呼吸器なしで10年以上過ごす方も約1割いました。 「平均はこれくらい」と決めつけず、目の前の方がどの段階にいるかで考える必要があります。
考える力・感じる力は保たれることが多い一方で、認知症ではない方でも、検査で軽い低下が見つかる方が少なくありません(軽い低下4割ほど・はっきりした低下3割弱)。 場に合わない笑いや泣きが出る情動の変化も、3割弱の方に見られました。
さらに、目を動かす力まで失われ、外からは意思が全く伝わらなくなる、完全な閉じ込め状態(TLS:Totally Locked-in State)になる方もいます。 呼吸器をつけて長く過ごした方の調査では、このような状態になった方が一部いて、進み方が速い方ほどなりやすい傾向がありました。
○ よくある勘違い:「反応が無い=分かっていない」ではありません。TLSの可能性もあるため、決めつけずに看護師・ご家族へ必ず伝えます
○ 関係する単元:意思の確かめ方はNo.05で詳しく扱います
気管切開して使う呼吸器(TPPV)は、一度始めると途中でやめるのが難しい治療です。 そのため、つけるかどうかはご本人・ご家族にとって大きな決断になります。
ご本人の意思は、一度決めた後でも変わることがあります。 「前に聞いた時はこう言っていたから」と決めつけず、都度確かめる姿勢が大切です。
ALSには、進行を遅らせることを目指す薬がいくつかあります。 リルゾール(1999年認可)、エダラボン(2015年承認)、メコバラミン筋注とトフェルセン(いずれも2024年承認、トフェルセンはSOD1という原因遺伝子の変異がある方だけ)などです。 高カロリーの栄養療法も、体重を保つ目的で重要とされています。
これらは病気を治す薬ではなく、進行を遅らせたり、生存期間を延ばすことを目指す薬です。 ご家族から「薬を使っているのに良くならない」と聞かれた時は、この位置づけを伝えると安心されることがあります。
この章までの内容を接し方に落とすと、次のようになります。
○ 関係する単元:呼吸器そのものの仕組みとアラームはNo.02で扱います
全部分からなくても、これだけは。ALSは体が動かなくなる病気ですが、感じる力・考える力は多くの場合残ります。進み方には大きな個人差があり、数字は目安として扱います。
問1 ご本人は手足を動かせず、話すことも難しい状態です。ヘルパーのAさんは「ご本人には聞こえていないだろう」と考え、ご家族とだけ世間話をしながら介助をしました。この対応について正しいのはどれか?
問2 ご家族から「ほかの方は呼吸器なしで5年以上生きていると聞いたので、父も同じように進むはずですよね」と聞かれました。どう答えるのが適切か?
問3 呼吸器をつけて長く過ごしているご本人が、最近呼びかけへの返事が全く無くなりました。ヘルパーが「もう何も分からなくなった」と決めつけて記録してよいか?
問4 ご家族から「薬を使っているのに全然良くならない。薬の意味がないのでは」と聞かれました。正しい説明はどれか?
出典:難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/entry/52 / https://www.nanbyou.or.jp/entry/214 )、日本神経学会「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」Q&A1-6・1-7