体に対して、医学の判断や技術がないと危ない行為を「医行為」と呼びます。 医行為は、原則として医師・看護師など決まった人しかできません。
ヘルパーの仕事は「医行為ではない行為」が中心です。 ただし、一部の医行為は、決まった条件を満たしたヘルパーにだけ、例外的に認められています。それが次に出てくる吸引の研修です。
正式には「喀痰(かくたん)吸引等研修」です。 平成23年の法律改正で、平成24年度から始まりました。
研修には2種類あります。
研修を終えると「認定特定行為業務従事者認定証」(以下、認定証)が都道府県知事から出ます。
○ 吸引の研修を受けていなくても、できることは意外と多くあります。第2章で表にします
吸引の研修で認められるのは、次の5つの行為だけです。
吸引は範囲にも決まりがあります。 口・鼻からの吸引は、のど(咽頭)の手前まで。気管切開の場合は、カニューレの内部までです。それより奥は看護師の仕事です。
この5行為は、研修を終えただけでは行えません。 次の5段階がすべてそろって、はじめて行えます。
5段階のどれか1つでも欠けていれば、その行為はできません。 自分の事業所が登録しているか、自分が認定証を持っているかは、管理者に確かめてください。
○ 経管栄養で、医師・看護師しかできない部分もあります。経鼻胃管が正しく胃に入っているかの確認、胃ろう部の状態の確認、胃の中身を引いて注入してよいか判断することです。注入そのもの以外にも、判断がからむ部分は看護師の仕事です
吸引の研修とは別に、研修なしでも最初からできる行為が、いくつかの通知で決まっています。 一方で、どれだけ経験を積んでも、ヘルパーにはできない行為もあります。
表1:研修なしでできること、研修があればできること
| できる(研修なしでOK) | 研修+認定証+事業所の登録+指示書があればできる |
|---|---|
| 体温・血圧・パルスオキシメーターの測定、装着 | 口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の吸引 |
| 吸引器の汚水を廃棄する、水を補充する | 経管栄養の注入と、注入の停止 |
| 経管栄養の準備と片付け(注入と、注入の停止は除く) | — |
| 外れた経鼻胃管のテープを貼り直す | — |
| 軽い傷の手当て、爪切り、口腔清掃、耳垢の除去 | — |
| お薬カレンダーのセット、PTPシートから薬を出す、湿布を貼る | — |
| 蓄尿バッグのつなぎ替え | — |
表2:ヘルパーはできないこと(医師・看護師だけ)
| ヘルパーはできない(医師・看護師だけ) |
|---|
| 経管からの薬の注入 |
| 摘便(てきべん) |
| インスリンの注射 |
| 褥瘡(じょくそう)の処置 |
○ この表のもとになっている通知は3つあります。平成17年(体温・血圧・パルスオキシメーターなど)、令和4年(経管栄養の準備片付けなど)、令和7年(お薬カレンダーなど)です
○ 「ALSは褥瘡ができない」は誤りです。長く呼吸器を使っている方で褥瘡が起きた例もあります。できる所は予防の声かけや報告で、処置そのものは看護師の仕事です
褥瘡そのものの処置は医師・看護師の仕事ですが、できない行為というだけで、関係ないわけではありません。 体位変換や、気づいた皮膚の変化を伝えることは、ヘルパーの大事な役目です。
No.02で見た呼吸器の回路やカニューレの位置を、ヘルパーが動かしてよい場面が1つだけあります。 体位変換のときに、医師または看護師が立ち会っている場合だけです。 その場に医師・看護職員がいて見ている時のことです。電話で許可をもらうのは立ち会いではないと考え、迷ったら動かしません。
立ち会いがない状態で、呼吸器の位置を自分の判断で動かすことは、できません。
この単元の線引きは、覚えていても、現場では「これはどっちだろう」と迷う場面が出てきます。 迷ったときは、手を出す前に看護師に確認してください。
やってよいか分からない行為を、見切りで行わないことが、ご本人を守ることにもつながります。
吸引の対象は5行為。咽頭の手前・カニューレ内部まで。研修+認定証+事業所登録+医師の指示書+看護師の指導、5つがそろって初めて行える。研修なしでできること・できないことは表で覚える。呼吸器の位置は、体位変換時に医師・看護職員の立ち会いがある時だけ動かせる。迷ったら手を出さず看護師へ。
問1 あなたは吸引の研修を受けていない。訪問中、胃ろうからの経管栄養の「準備」を頼まれた。正しい考え方は?
問2 あなたは吸引の研修を終え、認定証も持っている。この日だけ、いつもの事業所ではなく別の会社から訪問に入っている。気管カニューレ内部の吸引はできる?
問3 体位変換をしていたら、呼吸器の回路の向きを少し変えたほうが楽そうに見えた。この場に看護師も医師もいない。どうする?
出典:東京都福祉局「喀痰吸引等研修」(https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/tankyuuin.html)/栃木県資料(https://www.pref.tochigi.lg.jp/e03/welfare/koureisha/kaigohoken/27kt1.html)/名古屋市掲載 平成17年通知(https://www.kaigo-wel.city.nagoya.jp/_files/00041843/kouseiroudousyoututibun.pdf)/堺市掲載 令和4年通知(https://www.city.sakai.lg.jp/kenko/iryokusuri/iryo/kunikara/kunikarar04/r0412.files/i17si17hjk31_kaishaku_2nd.pdf)/福岡県掲載 令和7年通知(https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/289749.pdf)(2026年10月時点)